善と鱗

のんびり静かに暮らそう

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

生と死と夕焼け-EP13《終》

気持ちの落ち着いた頃に、少女は両親に肩を借り、青年の元へ戻った。両親は青年を前にすると砕けていた表情をピシッとしたものに直したが、すぐに少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。 「娘を頼みます」 「いいんですか」 「娘がそれを望むのなら」 「いい…

生と死と夕焼け-EP12

「着きましたよ」 従者が馬車を止め、ドアを開けてそう伝える。青年は礼をし、馬車から降りて両手を広げた。少女は迷わずその首に腕を回し身を預ける。青年は白いスカートの少女をそのまま横抱きにして歩き出した。 馬車が到着していたのは辻馬車の待機場所…

生と死と夕焼け-EP11

二人がドアを開けると、少女の両親は驚いた表情を大きく浮かべた。それは次に歓喜を表し、最後に心配そうな顔になった。母親は身を乗り出し駆け寄ろうとした。 「ナーシャちゃん!」 「待ちなさい」 それを父親に止められ、母親は駆け寄れなかった。母親は不…

生と死と夕焼け-EP10

二人は荷物をまとめた。小さな小屋でお互いに荷物なんて衣服くらいだった。それに青年は数日分の食料と水を革製の鞄に入れた。 「荷物はまとまったかい?」 「バッチリよ!もう出発が待ちきれないわ」 そんな少女に青年はにこやかに笑いかける。 「そんなに…

生と死と夕焼け-EP9

それからの数日、二人はお互いの傷には深入りはしないで過ごした。それは今までと変わらない、ただテレパシーのように、少女の傷にも青年の秘密にも触れない。それは怠惰な日常とも言えた。 少女には肉体的な傷だけでなく外的傷もあった。それは初めて青年が…

生と死と夕焼け-EP8

小屋に戻った二人は荷解きをして購入した洋服なんかをタンスにしまった。二人は明るく話しているようでお互いに闇を抱きしめて別のことを考えている。 青年は恐怖に捕らえられ、少女は青年の秘密という甘美な響きに捕らえられている。 少女は青年の秘密が青…

生と死と夕焼け-EP7

少女の風邪は四日ほど薬を毎食後飲んでいると、すぐに良くなった。青年はその様子を見ていると、どんどんとあの薬草師に早くお礼を言いたくなった。 ただあの薬草師は、自分を遠い記憶ながらに覚えているのだけは気がかりであった。その変わらない閉じた扉は…